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「あれ、仕事してる?」
指を差された小さなファンヒーターは昼間から沈黙していた。
「灯油切らしちゃって…」
「ええっ!エアコンは?」
「ないです」
「こたつとか、ホットカーペットとか」
「ないですね」
「…」
呆れて声も出ないのかと思ったら、突然自分が巻いていた長いマフラーを外して、私の首にぐるぐると巻きつけてきた。
「えっ」
と驚いているとニット帽も脱いで私の頭にかぶせると、ぎゅっと引っ張って耳まで覆った。
うん、すごく温かい。
だけどなんで?
驚いて何も言えない私に
「待ってて。てか寝てて。布団に入ってていいから。鍵貸して」
そう言って手を差し出す。
反射的に玄関の横のフックに掛けてある鍵を渡してしまった。
「心配しなくていいよ。じゃ。ちゃんと閉めてね」
心配って…鍵の事かな。
言われた通りドアのカギを閉めると布団に戻った。
重ね履きしている靴下といい、マフラーに帽子までかぶって布団に潜り込む自分が何だかおかしかった。
冬の山小屋ってこんな感じかな。
それにしてもこのマフラー、すごく温かい。
軽くて表面がしっとりしていて、もしかしてカシミヤとか?
私にはよくわからないけどきっとすごく良いものだと思った。
「そういえば今日、クリスマスイブなんだよね」
小さな丸いテーブルに乗せた白い箱と、その隣に飾ってある百円ショップの小さなクリスマスツリーを見ながら、そう思った。
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