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一時間後…
ガチャっと鍵が開く音がして顔を上げると、ドアが開いて紺のダウンジャケットを着た金髪の人が入ってきた。両手に持った荷物をどさっと置くと、パタパタと雪を払っている。
「…おじゃまします…」小さな声で言うと靴を脱いで上がった。
布団の中から顔を覗かせている私と目が合うと
「大丈夫?」と言いながら部屋に入ってくる。
「う、うん」
「灯油、持って来たから。ポンプある?」
ポリタンクを持った片手を上げて聞かれたので、「玄関の横」と教えると取りに行き、すぐにファンヒーターの容器に灯油を入れてくれた。
スイッチを入れると「ぼっ」と音をさせて息を吹き返し、仕事を始める。
ほんのり灯油の匂いと一緒に温かい空気が流れてきて、ほっと息を吐いた。
「灯油切らすとか。札幌の冬を舐めてる?」
「そんなことないです。道産子だし」
「そうなんだ。どこ?」
「小樽」
「お、いいとこじゃん。はい、これ」
紙袋に入ったものを渡してくれたので中を見ると、体温計と解熱剤、保冷剤にマスクまで入っていた。
「まず熱測って。薬はまだな。あと、これ飲んで」
スポーツドリンクのペットボトルを渡されて、そういえば水分も取っていなかったと思い出した。
「キッチン借りるよ」と言って立ち上がると、スーパーの袋からアルミの鍋に入ったうどんを二つ取り出して、直接コンロで火にかけた。
すぐにぐつぐつと何かが煮える優しい音と匂いが漂って来て、胃袋がぎゅっと存在を主張し始めた。
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