2 美桜

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私の方こそ…どうしよう。 ドキドキしてきて、高瀬さんの顔が見れない。 「面接通ってから金髪にしたって、店長に何も言われなかったんですか」 「学園祭で仕方なくって言ったんだ。終わったら戻しますからって」 「なるほど」 「あ、だけどさ、おでんで覚えてもらってたんなら金髪にする必要なかったな。あはは…」 「そ、そうですよ。いきなり金髪になってるからびっくりしちゃった。あはは…」 二人でひとしきり笑った後、高瀬さんは急に真顔になると 「じゃ、俺帰るわ」 と唐突に立ち上がった。 食べ終わったお皿とカップを手に持ってキッチンに向かう背中を見ながら 「え、帰る?」 と聞き返してしまった。 話が中途半端な気がするのは私だけだろうか。 「うん。薬飲んだからもう寝ないと。そうだ、携帯貸して」 「携帯?はい」 私の携帯電話を手に取ると、何やら操作をしてから返してくれた。 「登録完了。俺の番号とメアドね。何かあったら連絡して」 「…はい」 数少ない登録者に「高瀬慶一郎」が加わっているのを見て、ちょっと嬉しくなった。 「明日また来るから、今日はゆっくり寝て」 「はい。あ、これ」 私は自分の首に巻いていたマフラーとニット帽を外して高瀬さんに返した。 「ありがとうございました」 「うん」 高瀬さんは自分で装備すると、玄関で靴を履いた。 「鍵、まだ持っていていい?」 明日も来ると言ったから、きっと私が寝ていても入って来れるように言ってくれてるんだと思って頷いた。 「元気になったら返すから」 そう言った高瀬さんにまた頷いて、その日はさよならした。 だけど結局その鍵が、私の手に戻ることは無かった。
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