1 夢ならば

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どこにでもいる平凡な家族だったと思う。 ただ普通より少し若い夫婦と二人の子供。 四人で暮らす毎日は、ただの日常で、単調な日々の繰り返しで、かけがえのない宝物だった。 四人で過ごした最後の日々…。 それは思いつきですることになった家族旅行から始まった。 その旅行は、私達にとって特別な旅だった。 七月の終わり。 私達家族を乗せたワンボックスカーは、首都高湾岸道路に差し掛かっていた。 時刻は夜の八時。 夜空に星は見えないけれど、窓ガラスの外を流れていくキラキラと輝く街の灯りが、そのまま都会の夜を彩る星のようだった。 「もう東京だよ」 「すごいね、キラキラしててきれい!」 「あの灯りの一つ一つに人が住んでいるんだね」 北海道から車で南下して四日目の夜だった。 運転席には私の夫、慶ちゃんこと慶一郎。 助手席に九歳の長女の優芽(ゆうか)、運転席の後ろに私、その左隣に五歳の長男、大樹(だいき)が座っている。 慶ちゃんは三十一歳。 札幌で大学を卒業した後保険会社へ就職し、勤続九年目にして神奈川に転勤の辞令が下りたのだ。 ちょうど夏休みに入った所だったので、引っ越しのついでに家族旅行をしようということになり、ゆっくりあちらこちらを観光しながら車で移動して来た。 青森で十和田湖を見たり、福島で猪苗代湖や五色沼を見たり、サファリパークで遊んだり。 温泉やキャンプ場、民宿、旅館。 特に予約もしないで気ままに動く旅は予想以上に楽しくて、子供たちも大喜びだった。
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