no_sex_is_life

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10.お友達からお願いします 「じゃあ、ちょっと付き合ってみない?」  え、何処にですか、と言いかけてやっと理解した。理解した途端に頭真っ白になった。  後ろの方で「うわーんボクのミツル(仮名)ちゃん取っちゃいやー」とかふざけてくねくねしている男の声は聞こえてたけど、それから何を話していたのかはほとんど覚えていない。  ありえない。こんなのありえない。そう思ってしまってからもう1人の自分が、ひょっとしてワタル(仮名)から超淡白と聞かされて、絶対落ちなそうにない男落としてみたくなったギャンブラーなのかもよ、とか考えちゃってたり。もう大混乱。 「いやでも今日会ったばかりですから、そんなに急には」 「私のことはこれから何回か会って知ってって欲しいな。そんなの普通でしょう? 付き合う前から両想いなんてこと、滅多にないんだし」  ワタル(仮名)の口からも何度か聞いていたはずの言葉が、心にちょっとだけズシンと音を立てた。  初めて自覚した。フィクションでしか恋に憧れていない男は、恋する2人は結ばれるべくして結ばれるものだと何処かで思っていたことに、逆に、気づかされた。  有り体に言ってしまえば「運命の赤い糸を信じていた」のだ。恥ずかしいことに。というより、そういう恋愛をこそ、してみたかったのかも知れないけど。  恋に落ちる→付き合うじゃなくて、付き合う→恋に落ちる可能性の第一歩。そうだとしたら自分に恋愛のチャンスなんて永遠に来ないのかも知れないと思えて来た。だってそもそもモンスターとぶつかる気もない弱腰勇者ですから。 「……お友達から、じゃダメですか。猶予下さい。これは体のいいお断りセリフじゃなくて、本当に文字通りそのまま受け取って欲しいんですけど」  俺はそんな風に答えた。  人生初。彼女という名のご予約席設置。かと言って電車男になる気は、相変わらずないんだけど。
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