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14.再発
「でね、ミツル(仮名)くん」笑いが散りばめられたまんまの呼びかけ。「……ちょっと思ったんだけどさ」
「なに?」
「それでどーして恋愛出来ないなんて思ってるの?」
不意を突かれた。咄嗟に表情を作ることも間に合わない。息を詰めることしか出来なかった。
「普通なのに。恋愛なんかすんなバカってタイプの男が女に群がってるのに、ミツル(仮名)くんみたいなのが最初から拒否ってるなんてもったいないよ、すごく」
ふざけてしなだれかかったままの姿勢。顔は見えない。でも声がだんだん重くなって来る。
……嫌な予感がした。
「沸点が高い、っていい表現だよね。ワタル(仮名)から聞いた。多分、ミツル(仮名)くんはほんのちょっと親しいくらいではそれを恋愛とは認めないんだろうって。……間違ってる?」
「間違って、ない」
心の底から何かが湧き上がって来るのが見えていた。真っ黒いもの。ヤバいと思った。コレに会うのは何年ぶりだろう。このまま沈静化してくれたらいつもの小爆発で済むけど。
「あのね。答え辛かったら無理強いはしないけど、」
サトコ(仮名)さんが体を起こした。けど俺の目は見ていない。
「私は、ミツル(仮名)くんにとって『特別』にはなれてる? 恋愛じゃなくても」
サトコ(仮名)さんはテーブル手前の端に指先で線を引いてみせる。右手をその線の右端に。左手をその線の左端に。
「色んな人があなたの心にはいる。その中で、どのくらいの位置に私はいる? 恋愛じゃなくても、人間としての好き嫌いのモノサシを横たえたら、私は、その中でどのあたり?」
好き嫌いのモノサシ、という言葉の、「好き」の部分で右手を少し動かした。「嫌い」の部分で左手を。
それから俺を見上げて来る。
答えられない。答えたくない。
──答えてしまったら、あれが再来してしまうことが、判っているから。
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