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15.宣戦布告
「……あれ、嘘だから」
サトコ(仮名)さんはまっすぐに俺の目を見ていた。
「賭けなんてしてないから。ワタル(仮名)には、ただ私を紹介して欲しいって頼んだだけ。あの日、何とか連れ出して、偶然を装って会える段取りをして貰っただけ。
でも最初から警告されてたから。あなたは恋愛ごとに対して興味がないって。まるでそのための遺伝子だけごっそり抜けてるみたいに無頓着なやつだからって」
目が逸らせない。強い意志が俺を縛っている。頭の中に彼女の言葉が詰まり始める。追い詰められて行く。
「いっそ同性愛者なら笑って諦めたんだけど、そうじゃないって判ったらどうしようもなかった。ワタル(仮名)にグチ零してたら、あいつがポロッと言ったんだよね──『俺とミツル(仮名)は同類だから』って。恋愛に本気になれないって意味では同類って。だからこそ仲間でいられるんだって。それで──思いついた」
吐き気がする。限界が近づいてる。このままでは確実にほぼ10年ぶりの大爆発だ。なのに、ぴくりとも動けなかった。
「『仲間』になれば近づけるかも。近づけばチャンスはあるかもって。吊り橋理論の変形かな。私と一緒にドキドキすることに放り込めば、何か変わるかもって思った。
秘密を共有して、話す時間を増やして、話せる話題を---私としか話せない話題を常に用意出来たらつかまえてられるかなって。だから──」
サトコ(仮名)さんの言葉が途絶えた一瞬で何かが切れた。俺は何も言えないまま立ち上がった。口は開けなかった。開いたらそれが出て来るのが判ってたから。体の底からせり上がる、真っ黒なカタマリが。
そのままトイレに駆け込んで、胃の中が空になりそうな勢いで俺は吐き続けた。
全身が冷や汗に濡れていた。頭がガンガンした。目の前が涙で霞んだ。そして。
サトコ(仮名)さんを、避ける理由が出来てしまった。
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