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16.会えない
スタバの店員さんが心配してトイレを覗きに来てくれた頃には、口を漱いで汗を拭って、普通の呼吸を取り戻せていた。
大丈夫ですと答えてから、自分のいた席とサトコ(仮名)さんの服装を説明して、まだ彼女が店内にいるかどうかを尋ねる。もう帰られました、という言葉と一緒に、店員は俺の鞄を差し出してくれた。
礼を言って店を出る。
帰ってくれた。助かった。もしかしてワタル(仮名)に電話でもしただろうか。彼には、あれのことを話したことがあったはずだから。
この繊細過ぎるセンサーが元凶だった。明らかな(恋愛的な意味での)好意を向けられた時、それがあるレベルを突破したと感じると、全身が拒絶反応を起こし始める。自分ではコントロールが効かない。
そして以降は、たとえ向こうにそんな気がなくても、姿を見た途端に同じように頭痛や吐き気に捉われる。
だからサトコ(仮名)さんにはもう会えない。街で会っても見なかったと思い込んで吐く前に出来るだけ離れるしかない。
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