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何故なのか判らない。少なくとも家庭は円満だし、トラウマになるような大きな事故にも遭ったことがないし、手ひどく恋に傷ついた経験がある訳でもない(というかそもそも恋愛したことない)。
どうして俺は人の「特別な好意」にこんなにも怯えるのか、心当たりは何もない。
「発症」は中学生の時。バレンタインチョコに込められた好意ですら俺は吐いた。
ただの義理チョコだからと笑ってクラスメイトから渡されたが、中には真剣な気持ちを綴った手紙が入っていた。何気なくチョコ食べながら読んで、そのままトイレに駆け込んで戻した。両親はすわ食中毒か毒薬かと大騒ぎしたけど、食べかけのチョコと体の検査では何の異常も見つからず、思春期特有のストレスで流されて終わった。
しばらく学校に行くのが辛かった。目を逸らして口を噤んで、彼女を避け続けた。時には耐え切れずトイレに飛び込んで、空っぽの胃から垂れる胃液くらいしか出て来ないのに、それでも吐かないとならない自分の体を呪った。
ホワイトデーにお返事というのが当時の流れだったけど、そんなことはとても出来なかった。
当然、彼女は嫌われたものと解釈してくれた。やがては逆に俺を嫌うようになった。
俺はホッとした。向こうから避けてくれるのが本当に本当にありがたかった。
──だから今でも、『同類』と確信出来る人としか友達にすらなれない。
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