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17.引き際
「……謝っといてって、伝言」
ワタル(仮名)は、普段とは別人のように落ち着いた声でそう教えてくれた。
「いや、それ俺のセリフじゃない?」
「あっちは、知ってて追い詰めた、と表現してるけど」
「…………」
「駆け引きが通用する相手じゃないよ、とは警告したつもりだったけど、通じてなかったみたいで。俺も、ゴメン」
「ワタル(仮名)は悪くないし。……それより」
「会って謝りたいってのは阻止しといたよ。大丈夫。あいつは引き際間違える女じゃないから」
「……ありがとう……助かった。本気で」
それで全部終わった。俺とサトコ(仮名)さんは、以来このことでは二度と会うことも話すこともなかった。電話もメールも、一切来なかった。本当に引き際のいい人だった。さすがワタル(仮名)の好敵手。
全てが終わってから、ツトム(仮名)にも洗いざらい話していた。半ばグチだけど。彼はカウンセラーとしても優秀だなと思う。決して俺を否定せず、かと言って肯定もせず、同情もせず、話を邪魔することなく、ただ聞いてくれていた。昼休み、それで潰させてしまった。
ツトム(仮名)はメール派だ。家に帰り寝る間際になって、深夜に携帯が鳴った。何気なくチェックしたら、ツトム(仮名)からのメールだった。
『何かの参考になるかも知れないから送ってみるテスト』
そんな文章に添えられていたURLの先にあったのは、とある携帯サイト。
さらっと流し読んで、とりあえずブックマークに登録した。
──まだ半信半疑だった。こんな俺と同じ考えの人間が、俺以外にいるだなんて信じられなかった。
ちゃんと読まなければならない。そう思った。
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