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21.地球の半分対象外
ある週末。
久し振りに3人で飲みながら話していて、ツトム(仮名)から考えてもみなかった可能性を示された。
端的に言ってしまえば、「好かれると吐き気がする」、これが俺の『病気』だ。
それも、俺の気持ちの中で恋愛スイッチ(と思われるもの)が押された途端に発症する。
とりあえず、今の所の発症例は圧倒的多数で女性。だから多分、俺の心が恋愛対象と認識しているのは、女性。
「──とは、限らないかも」
「はい?」
「っていうかミツル(仮名)」
「はい」
「自分がゲイかも知れないと疑ったことがない?」
ありません。首を横に振るしかない。
「それってさ」
「はい」
「女性を恋愛対象にしたくないから『発症』しているという可能性は?」
ぽかん、としてしまった。
「それ、無意識からのサインだったりしない? ミツル(仮名)、たくさんのフィクションを見て来て憧れが強くなり過ぎてるって自分で言ってたけど、そうやって、男女の恋愛ストーリーにだけ自分の存在を嵌められて、無意識が抵抗してるって可能性はない?」
ないと即答出来ない。判らないから。恋愛とはこういうものですという形を自分が知っていれば、男性に対してそれは当てはめられませんと答えられるんだけど。どんな形なのかすら判らないから。
何となく想像している分には、隣にいるのはいつも女性なんだけど、それは自分の性自認(という言葉もAセクシャル関連サイトから知った。体の性別とは別に、自分で自覚している性別、のことだと思う)が男であることが揺らいでないから、数あるフィクション作品で自然とされている並びに感情移入しているだけなのかも知れない。
「いやミツル(仮名)はノーマルでしょう」と横からワタル(仮名)が口を挟む。
「どーしてそう思う?」
「ホモだったら、こんないい男がそばにいるのに惚れてない段階でおかしい」
「いい男って何処よ」
知ってて言わせてるなツトム(仮名)。にっこりと自分を指さすワタル(仮名)。はいはいはい。呆れて溜息混じりな俺とツトム(仮名)。
「うわなんか悔しい」by ワタル(仮名)。
「いやそんなことで悔しがらなくていいから」by ツトム(仮名)。
「っつーか挑戦していい?」by ワタル(仮名)。
「はあ!?」by もちろん俺。
「なんか賭ける?」by ワタル(仮名)かと思いきや by ツトム(仮名)。
「はあ!?」by いい加減しつこいですが俺。
俺を賭けの対象にするのは2度目か、と言いかけて慌てて黙った。あれは彼女の嘘だったんだっけ。ついでに思い出してしまってちょっとチクッと来たけど、あの当時に受けてしまった痛みはだいぶ薄れて来ていた。確実に少しは強くなったとは思う。弱腰勇者もようやくレベル2。
「いやでもね、ムダじゃないとは思うけど」ワタル(仮名)は頷きながら言った。「少なくとも、とりあえず誰かと付き合ってみて、うわやっぱり耐えられねぇ! ってことが判明したら、それだけで地球人の半分は対象外に出来るんだよ? もし本気で『運命の人』探す気なら、ちょっとは楽にならない?」
「だからってなんでワタル(仮名)!?」
「いやむしろ俺が聞きたい。どうして俺じゃダメなわけ? そんなに嫌いか? 俺が」
……話の流れが明らかに変な方向に進んでいた。
「そうじゃなくて」
「じゃ何」
……変な方向に進んではいるのだけど、俺には本気で判断材料がない。考えてみたことがなかっただけ。むしろ、サトコ(仮名)さんと『付き合い』始めた頃よりももっと嫌う理由がないから困ってる。
……本気で困る。断る理由がない。だれか同性愛探知機持ってませんか。俺をノンケだと判定して下さい。
ああそうか。理由発見。
「いやだってワタル(仮名)はノーマル確定だろ?」
「違うよ」
あっさり言うな。気絶しかけた。
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