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22.ないものを証明する難しさ
ワタル(仮名)の声がすとんと落ち着いた。真面目モード。
「……ただ証明は出来ない。女と付き合うのは問題なし。本気で好きになったことはないけど。でもそれと同じ程度の意味で、男だって本気で好きになったことはない。『好きになったことがない』のも、俺の中では男女差がないんだ。たまたま女性の方が付き合う率が高かっただけで」
「率が高かったって…」珍しくちょっと意外そうにツトム(仮名)が声を上げる。「それ、男と付き合ったことあるように聞こえるけど」
「そう聞いていいよ。でも女よりさらに続かないから。瞬速。しかも去られる。もうある意味定石」
言葉には出さないけど、理由は判る気がする。これもAセクシャルサイトを見て回るうちに仕入れた知識だけど、正常な(?)男ならセックスを抜きにして恋愛は続かないものだから。男性であるというだけで性欲のコントロールは効きにくい。男は性を否定されることは全人格の否定みたいに思い易い。性を拒絶することはその人そのものに対する拒絶だと、何故か回路がそうつながっちゃってる男は、結構いる。
「だから、これは俺自身が試してみたいってのもあるんだけどね。俺のために。多分覚悟さえ決められたら、最長記録に出来そうだから。少なくとも男では」
ひどく落ち着いたトーンの話し方だけど、彼が至って真剣にそう言っているであろうことは伝わって来る。
弱腰勇者レベル2早くもピンチ。本当にマジで断る理由が見つけられない。見つけられないものを探し出すのは、この返事待ち状態の中でやるにはあまりに難問過ぎる。
──俺だってそうだからだ。女性を好きになったことがない。同じ程度の意味で、男だって好きになったことがない。
だけど。じゃあ試してみようかなんて軽々しく考えることもまた、出来ない。サトコ(仮名)さんにはそう出来たのに。
彼女とワタル(仮名)では、あまりに違い過ぎるのだ。
自覚している。でも認めたくない。言葉にするのが怖い。してしまったらどうなるか判らない。
予兆がした。俺はその場を逃げ出していた。
──何とか吐かずにはいられた。でもしばらくトイレから出られなかった。会ってしまうのが怖かった。
証明されてしまった。この病気の相手に性差はない。女性が嫌だから拒絶するための警告信号なんかじゃなかったんだ。
もし、会って『発作』が出てしまったら。
俺は今までのどの瞬間より自分の体を恨んだ。こんな『発作』を抱えるがゆえに、友達としてのワタル(仮名)を失うことになるんじゃないかと想像したら気が狂いそうになった。
何処に基準を置いていいのか、もう自分でも判らなかった。
失いたくない、と、ここまではっきり自覚しているのに。
でも、こうなのだ。失わないためにこれ以上近づいたりしたら、きっと絶対確実に拒絶反応が出てしまう。かと言って離れるなんてそれこそ考えたくない。
考えられないのに──今更。
自覚している。でも自覚しちゃだめだ。言葉にしたら取り戻せなくなる。許せるラインで留まらないと。
友達でいさせて欲しい。お願いだから。
そう懇願するために話しかけることさえ、起爆剤になってしまいそうで、怖い。
──怖い。
がくんと、ワタル(仮名)が一気に遠くなった。
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