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23.発作の意味
背中に当てられている手はツトム(仮名)だった。少しだけ長い溜息。
ワタル(仮名)は5000円置いて帰ったから。その言葉に押されるように何とか戻りはしたものの、もう何も喉を通らなかった。時間も時間だし出よう、と促されてようやく店を出る。会計は割り勘で。
何か話したかったけど、喉が引きつって言葉にならなかった。
まだ終電には間に合っていた。2人は地下鉄の駅に向かう。同じ路線の逆方向だから、ホームまでは一緒。
ベンチに座ったらと勧められたけど、断った。今座ったらしばらく立てなくなる。
「──落ち着いたら電話して」
アナウンスが、ツトム(仮名)の乗る列車が来ることを知らせていた。
「吐いても平気な所から、ケータイでね」
「……吐かせる話?」
「もしかしたら。ちょっと見えたかも知れないから、『発作』の意味が。どうせ週末はゲームしてるだけだから、夜中でもいい。何時でもいいから」
──認めるのが嫌なだけで、多分俺自身にも判りかけている。
でも恐らく、ツトム(仮名)から突きつけられる方がいいのだ。どうしても、自分から認めるだけの勇気が出なかった。
「……あのさ」
「なに」
「ツトム(仮名)、カウンセラーになった方がいいって」
「それはどうかな」笑っている。「俺の場合は、相手を選んじゃいそうな気がするから」
ああ、判る気がする。口の中だけで呟いて、俺もちょっと笑った。
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