no_sex_is_life

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25.恋愛禁止令  ぐるぐる思考が回っていた頭の中に、ふと風が吹いた気がした。 「……どういう……」 「あくまで『多分』だけど、」  理解した。冗談なんじゃなくて、俺の心に負担をかけないために笑っているのだ。 「お前が恋愛に対して求めてる基準は高過ぎる。お前だけじゃなく、世の中の誰もが、お前が理解しているような意味で誰かに恋をするのは、無理だ。自覚しているだろうけど、理想高過ぎ。ここまではOK?」 「……OK」 「で、お前は親しい人間を自分の心の中にマッピングする時、多分、全員を直線上に並べてる」  ふと思い出す。サトコ(仮名)さんがテーブルに引いた好き嫌いのモノサシ。 「直線のド真ん中にお前がいる」  イメージの中で、俺は小さな人形になってモノサシの上に立っていた。 「今のお前にとって、誰かが、自分にとって『特別な存在』になると、その道の先にあるのは自動的に恋愛スイッチだ。しかもだいぶ遠い」  小さな人形は『好き』の方向に目を向けていた。ふわふわピンク色に霞む恋愛領域が遠くに見える。かなり遠くに。 「けど──その道は唯一じゃない」  人形はきょとんと目を瞬いて周りを慌てて見回した。 「お前さぁ、同じ線上で全員を測ろうとしてないか? 判らないから、自分のイメージの中の理想郷に辿り着くためだけの、その1本の道にしか、他人ってものを見てないんじゃないか?」  ぽつんと人形の足元に何かが滲んだ。 「道を作れよ。それぞれの人間専用の道を。人間関係に理想的な1つの形なんて存在しないんだから。  好きには色んな好きがあるよ。絶対ある。だけど、今のお前の場合、恋愛につながる道しか好きとは判定してないんだ。  実はそうでもない。色んな方向がある。そして、その好きの先は大部分が恋愛のレの字もないトコにつながってる。なのに、その別の道にいる人たちを無理に特定の道にだけ引きずりこもうとしてる。それが辛いんじゃないかな、ミツルの『発作』は」  ──足元から放射線状にふわあと道が広がって行く。  夜空に星が灯るように、道の先に人の姿が現れる。同じような小さな人形。1つの道に1人ずつ。 「全部の道を歩いてみろよ。もしかしたらひょっとしたら、ひょんなことから、お前の理想じゃなくて、現実のお前にか出来ない恋愛につながる道が見つかる可能性だってないわけじゃない。  どっちにしても、今は道を増やす時機だと思う。人間関係のチャンネルを増やす。その手始めに、お前が抱えてる理想の恋愛像から一番遠いヤツの胸に飛び込んでみる。道を曲げないで、そのまんま」 「……ワタル(仮名)か」  ちょっと苦笑。 「一番ヤバい道だとは思う。道なきジャングルみたいなもんかと。……でも」  一呼吸置いてから、 「それでも、一番傷は浅くて済むとは思う。あいつなら」 「そう、だね」 「いいか。ここ試験に出るから線引くこと」  偉そうに咳払いなんかしてみせる。 「なんだよそれ」  少しだけ力が抜ける。 「恋愛しないために付き合う。今回のクエストはそういうことだ、若き勇者よ」
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