no_sex_is_life

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27.触れることの意味  思い出しながらいくつかの話題について書いてみる。大部分は「デェト」と称して飲みに行ったついでに話したことだけど。  最初は「風俗行ける?」という話だった。  ワタル(仮名)の少年時代(笑)において、最初の悩みはそこにあった。彼は、セックスに意味を見出せない以前に接触が苦手な人間なのだ。  正直最初それ聞いた時はびっくり。でも考えてみたら確かに、隣に女の子はいるんだけど、手をつなぐとか腕を組むとかいう、直接の接触を伴ういちゃいちゃぶりは見たことがなかったのを思い出して納得。  で一方の俺は、接触に対しての抵抗は、多分、ない。ワタル(仮名)からもそう見えていたそうだ。そりゃ、目の前でほんのりとサトコ(仮名)さんといちゃついて見せたことがあるしね。  その時の言葉は結構覚えてる。 「触られても吐かないのに、好かれたら吐くって、俺から見るとすげー不思議。体は平気で心がダメなんだなって。  だから、ミツル(仮名)は多分風俗は行けるんだよ。気持ちなしの接触に抵抗ないんだから。……俺は抵抗ありまくりだけど。そういう訳で、むしろ非童貞街道を最初に突き抜けるのはミツル(仮名)なんじゃない? 捨てる気ならいつでも捨てられるだろうし」  うわぁ本当だ、と自分でも驚いた記憶がある。積極的にセックスしたいなんて本当に思えないんだけど、でも自分が風俗行くことを想像したとしても別に不快感は沸いて来ない。  要するに、ワタル(仮名)は「苦手」であり、俺は「興味がないからどうでもいい」のだ。この差は結構デカい。  我ながらこれって人間としてどうなんだろうと思った。気持ちとセックスが全然結びついてない。  恋愛さんとセックスさんは、自分とは離れた何処かできっちりイチャついてくれていると思ってたのに、実は自分から見えてない所で家庭内別居してやがったみたいなショック。どっちにしても見えてないし、目を向けたことがない、興味がないことには変わりないんだけど。 「触られるのダメなのかー」 「うん。でもこれは経験値の悪影響かも知れないんだけどね。色んな人と付き合えば付き合うほど、『触る』ことの延長に必ずセックスが見えちゃうから。少なくとも相手がノーマルである以上は」 「ああなるほど。防衛線張っちゃうわけだ」 「そう。本当に少しずつながら、最近むしろ悪化傾向な気がして、……ちょっとマズい。精神的に。  ミツル(仮名)以上に俺の方があがいてるから。誰かと付き合うことすら出来なくなったら、俺はこの社会と、世界とのすら接触出来なくなる。こういう生き方しか知らないし。それがもう、人間らしく見られるための最後の生命線みたいになっちゃってる」  ワタル(仮名)がこの手の弱音を俺の前で洩らすのは珍しかったから、ちょっとだけしんみりすると同時に、確かにこういう人間関係チャンネルは初めてかも知れないなあと思う。  延長上に「恋愛」の文字が見えることのない「好き」の在り方。明らかに友情とは別物だけど、でも恋愛になることもまた、ありえない。  どう表現していいか判らなくて、それでも何かをしたくて、俺はえらく陳腐なセリフを言ってしまった。 「俺に出来ることってなんだろ」 「……え?」 「ワタル(仮名)のために、俺が出来ること」
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