no_sex_is_life

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28.他人の体温 「とりあえず握手」  のけぞった。そしてその可能性に思い至ってぞっとした。 「ワタル(仮名)、ひょっとして握手もだめ?」 「お前みたいに、吐くとか体の反応が出る訳じゃないけど、苦手は苦手。ひどい時には、仕事の上で名刺交換する時に、指先が触れただけでも脂汗出そうになることあった。今はさすがにそんなことないけど」 「よくそれで営業やれてたね……」 「だから、あがいてたんだってば。人と接する仕事してないと、この世界で生き残れないって思ってた。沸点が低いんじゃなくて荒療治だったのかも、今考えると」 「それじゃあ」  友達同士、男同士、下心なしに、ただ握手する。  ただそれだけの行動のはずなのに、俺の差し出した手は長いこと1人ぼっちでテーブルの上に浮いていた。  1分も経ってはいない。でも、人が握手を求めて応ずる時間としては長過ぎる。彼の葛藤を察するにはあまりある沈黙。  ようやく伸ばされた手をつかんだ時に、ただそれだけの行動に、強烈な達成感が伴っていた。普通の人にはバカみたいだろうけど、当時の俺にとっては、本当にそんな感じだったのだ。うわ、触れてる、すげ、何とかなった、みたいな。  ただ、ワタル(仮名)の手はものすごく引いていた。そんなに嫌うなよおい、と言い出したくなるぐらい、怯えて戸惑っているのがはっきり判った。  だから余計にがっしりつかんでた。ただの握手だし、周りからは怪しまれるようなものでもないし。これが男女だったらまた意味合い違いそうだけど。  ちょっぴり長過ぎる握手を離す。  ワタル(仮名)はしばらく、自分の心の中を覗き込んでいるみたいにじっとしていた。 「……平気だった?」  恐る恐る尋ねたけど、それでもワタル(仮名)は暫く答えを探せないでいた。  だからそれ以上のことは聞かなかった。向こうから話し出すのを待つ方がいいと思って、ちょっとトイレに立ってみた。  わざとゆっくりめにテーブルに戻って来る。  ワタル(仮名)は覚悟を決めていたみたいに、俺が座ると同時に口を開いていた。 「やっぱダメだ」  がっくり。 「でもどうしてなんだろう。仕事相手とか、恋愛ごとに明らかに遠い人間なら何も抵抗なくなってたんだけどなぁ、最近は」 「俺じゃ抵抗あるんだ」 「ほんのちょっと」 「……そうか」  ツトム(仮名)と話してたことが頭の片隅でちょっとだけ閃いた。 「ワタル(仮名)ってさ、俺のこと好きでしょ」
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