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33.振り回されることの快楽
彼がその日、何かを思い出しているらしいことは何となく気づいていた。その記憶は彼にとって「罪悪感」という言葉とセットになっているであろうことも。
ただワタル(仮名)に関しては、どの記憶もそれなりに罪悪感がついて回っているんじゃないのかな、と想像する。特に「触れる」ことに拒絶意識があることで壊れてしまった関係については。
ワタル(仮名)はその日、本当に珍しく酔っ払っていた。帰り際になって足元が危ういくらいに。
しょーがないなぁと思いながら支えて歩いた。時々何かを言ってたけど、その頃のはもう判別出来なかった。
電車のホームでベンチに座らせて、醒めるまで一緒に風に当たってた。確か秋口だったような気がする。
何本か電車を見送って、ワタル(仮名)がちょっと笑って「もう平気」って頷いて、俺は俺で帰ろうかなと立ち上がりかけた時、手を引っ張られた。
それが(当時の)俺にもたらしたショックは結構デカかった。たかがそれだけで、と普通は思うだろうけど。それは承知なんだけど。でもそれまで話していたことの全部が頭の中でぐるぐる回ってしまった。
その日は終電乗り損ねた。
ワタル(仮名)はずっとぼんやりしたまま俺に寄りかかってた。
俺もこいつに振り回されてた。でもそれは覚悟の上だったし、嫌な訳ではなかったんだけど。
でも、この男が触れることに戸惑わない相手が出来たのは進歩だと思ったから。多少アルコールの力を借りていたとはいえ。
ツトム(仮名)がもし見てたら、今度はワタル(仮名)が受だとか言い出すな、多分。俺たち2人の場合はそんなのどっちにもなりようがないんだけど。
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