no_sex_is_life

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38.社交辞令か口約束か  ある日の昼休み、食事を終えてから俺は銀行に寄るためにツトム(仮名)と離れて1人になった。  無事にATMでお金を引き出した後、時計を気にしながら会社に戻ろうとしていた時に、例の青年と会った。  俺は青年に会釈した。彼もにこりと礼を返した。顔見知りの礼儀。それだけだったはずなのに、青年は俺の顔を見て何かを思い出したように慌てて色を変えて駆け寄って来た。 「あの、ツトム(仮名)さんと同じ会社の方ですよね」  目をきらきらさせる質問ではない気がしながら、今さら隠すほどのことではないので適当に「はいそうですけど」と返答する。  初めて間近に見た彼は、スーツを着ていないと間違いなく学生に見られるだろう少し幼い雰囲気。明らかに年下。新卒かあるいはそれに近いくらいの年齢だろうな、と思った。 「今度ぜひお昼ご一緒しましょう。ツトム(仮名)さんにはジムで色々とお世話になってるんですけどお話出来る機会がなかなかなくて」 「そうなんですか?」  あのツトム(仮名)は特別興味のない人と雑談に興じることを喜ぶタイプではないからなあ。そこまで理解するほどには、この人はツトム(仮名)を知らないのだな、と思うと、ちょっとだけ勝った気分だったりして。  話の内容は半ば社交辞令気分で聞いていた。それがまさか後日、本当に実現してしまうとは思ってはいなかったのだ。この時は。
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