no_sex_is_life

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40.余計な善意  ただ、彼のツトム(仮名)絶賛ぶり(?)は、たかだか昼食べる間に聞いただけでもちょっと異様だとは思った。  なんというか……好きなアイドルを語る中学生女子みたいな妄信ぶりだなあと。これが本当に中学生くらいの女の子だったら、悪いお兄さんに捕まる前に諭してあげるのが大人の義務だよなとか思っちゃうほど。  たまたま仕事が一段落して珍しく定時退社出来た日に、地下鉄の駅に向かいつつ、そのお昼会談のことをツトム(仮名)本人にも話してみた。一体何やってあんな熱狂的ファンを作っちゃったの? と半分冗談に紛らせつつ。  ツトム(仮名)は、かなりげんなりした顔で溜息をつきつつ、事の顛末を話してくれた。  ツトム(仮名)のジム通いは平日の夜が基本で、残業があったりするとかなり遅くにジムに行くことになる。当然、そこから出て帰宅する頃には、早い人なら一杯やっている時間だ。  その日、ツトム(仮名)が駅に向かっていると、路上で1人で大騒ぎしている中年男性がいた。何か嫌なことがあったらしく、大声でグチのようなものを喚きながらフラフラ歩いていた。そして、彼自身がそう意図はしていないだろうけど、通行人にあちこちぶつかったりして迷惑を撒き散らしていた。  普通の人は上手く避けていたけれど、その中で、避け切れなくてもろに抱きつかれるような体勢になってしまった女性がいた。  誰もが関わりを恐れて無視する中、放置出来なくてそのおじさんを羽交い絞めして女性から引き離したのがツトム(仮名)だった。  ちょうどいいタイミングで近くの交番からおまわりさんが駆けつけた。その時にはもう立つ気力もないのか地面に座ってぶつぶつ言うだけだった男性を放置して、ツトム(仮名)はその場を立ち去った。おまわりさんには呼び止められたらしいけど、それ以上時間を取られるのが面倒だったので、ヘッドフォンで音楽を聴いていたのをいいことに聞こえないふりをして逃げて来たそうだ。  それを、同じくジム帰りだったマサヤ(仮名)さんに見られていた。  似たような時間にいるなあ、という程度の認識だった彼は、その行為に感激したとツトム(仮名)に声をかけて来て、以来何かにつけてちょくちょく話しかけて来るようになった。
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