no_sex_is_life

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42.好意の温度差 「ミツル(仮名)さんとツトム(仮名)さんはどういう関係なんですか?」  マサヤ(仮名)さんの第一声で、危うくマンガばりにコーヒーを吹き出しそうになった。会社の同僚だということは既に前に話してある。となれば、この質問の意味は、その切羽詰ったような口調からしても、社会的立場としての関係を尋ねている訳ではないのが明確だったからだ。  少しだけ間を置いてから「ただの友達です」と冷静に答える。一応義務を果たした後、頭の中で自分の行動を走馬灯のごとく振り返り始めていた。  そりゃあちょくちょく2人でいることは確かだけど、そんな誤解されるようなことをいつした?  というかそもそも男同士の2人組からどうしてそんなことを連想する?  いや違う。  そう心で考えた直後に答えは出た。男同士の2人組からそういう連想が出て来るだけの素質が、彼の側にあるということだ。  つまりその。ひょっとして。  何も言うまいと黙り込んでいたつもりでも、顔には出ていてしまったらしく。マサヤ(仮名)さんの表情がみるみる気まずそうになって行く。  うわぁ。どうしよう。そうだったんだ。鈍くてゴメン。というか気づかないって普通、そんなこと。頭の中で言ってはいけない言い訳だけがぐるぐるする。 「……そうか」少しだけさらに声が落ち込んでいる。「ちょっとだけ期待したんだけど、やっぱ無理だったか」  『前提条件』が見えてしまえば、鈍い俺も意外に鋭くなれる。Aセクシャルサイトを見て回っていると、別のセクシャル・マイノリティの話もよく目に入るようになるからだ。  彼の言葉を補うとすればつまり、俺とばっかり出歩いていて隣に女がいたことがなく、ジムでも、雑談程度すら女性と話もしないツトム(仮名)は、ひょっとしてお仲間なのではないかと期待していたんだろう。  彼らにとってはまず、お仲間であるかないかが何よりも最初の分岐点だろうから。お仲間であれば、その当時に特定の相手がいたとしても機会はある。少なくとも、ノンケであると確定された人よりハードルはぐんと低くなる。  可哀想だけど、そういう意味で彼に望みはないだろう。大体「肉体の存在意義ごと抹殺」言ってるような男ですから、たとえ「お仲間」だとしても二次元美少年に萌えてるかも知れません、ツトム(仮名)は。
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