no_sex_is_life

52/109
前へ
/110ページ
次へ
43.戸惑い  それきり間が空いてしまったので、俺は俺で一応言いたいことを言っておくことにした。つまり、ツトム(仮名)の側はマサヤ(仮名)さんの好意に対してちょっと戸惑っているのだと、やんわりと伝えようとした。  彼は何も言わず、目も上げずに聴いていた。とりあえず、話を無視している訳ではないのが態度で判ったので、なるべく傷つけないように遠回しな言葉を慎重に選んで、俺が一方的に話していた。  正直、具体的にどう喋ったのかは全然覚えていない。それでも最後には彼が消え入りそうな声で「判りました」と言ってくれたし、以来、道で会うことがあってもほんの目礼程度で必要以上に話しかけて来ることもなくなったので、まあこれで良かったんだろうと思うことにした。  ツトム(仮名)の側もまた、誰に対しても強く好悪を示すことのないクールな男に戻ってたし。  だからこの小さな事件は、それでひとまず幕を下ろした。  ずっとずっと後になって、俺はまたこの時のことを思い出すことになるんだけど、……まあその話はまたいずれ。
/110ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加