no_sex_is_life

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47.同志  alexの本名はユカリ(仮名)さん──女性だった。思いもかけなかった。  掲示板での「僕」は、自身の性自認への戸惑いの表れだと彼女は言う。男女どちらの方が相手として楽か、だけではなく、自身の性自認も揺らいでいるAセク、というのは確かにいる。  彼女の格好もそれを表明している。至ってユニセックスな服装。スレンダーな体型や短い髪とも相まって、彼女の後姿は性別不明だ。 「女性ならもう少しおめかしして来るんだったなー」 「あれ? そういう気負いすらも必要ない間柄だと思ってたのに、ショックだなあ」  そんな会話から、2人の『デート』が始まった。  メールの延長のように話は弾んだ。土曜日の午後のカフェで、コーヒー1杯で2時間も粘ってしまうなんて俺は始めての経験だった。  特に印象的なのはセックスに対する違和感の話。  彼女は無関心派だ。女性は苦手派が多い。そして、女性の方が無関心と苦手の間に立ちはだかる壁は高いのだ。 「女なんだけど『減るもんじゃなし』とか普通に思っちゃうんですよねえ……。本当は、女であるなら減るものだと思わないとならないはずなんだけど。自分の身を守るためにも」  という言葉が印象に残っている  もちろん、彼女のこの言葉はレイプされても平気という意味ではない。レイプという行為はセックスの強要以前に人権の侵害、相手の人格を陵辱する行為だし、性病や望まない妊娠、乱暴な行為による裂傷といった現実的な危険を伴う傷害であることは間違いないのだから。
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