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48.約束
恋愛観以前の人間関係観も2人はよく似ている。やたらとべたべたする関係は好まないし、自分の領域は大切にしたい。だから、会う以前に「とりあえず2時間」と決めていた。ちなみに2時間の根拠は「喫茶店で2時間持たない男とはつきあうな!」を実践(?)してみるためだ。
実践はとりあえず成功。2時間はあっという間だった。何の苦もなく「また話せたらいいですよねー」「今度いつにします?」という話に流れていた。
デートの約束だ。Aセクシャルにしては望むらくもなかったはずの幸運じゃないのか。正直、頭の中はかなり浮かれていたと思う。
さらに、その浮かれ頭にお花畑が展開しそうな言葉が、彼女から飛び出した。
「あの、もし嫌じゃなかったら付き合ってみません? フリでもいいですけど」
一瞬言葉に詰まったのは、もちろん嬉しかったからだ。とはいえ、ほんのちょっと不安がない訳でもなかったのだけれど。
「──『恋愛観』以外の趣味とか嗜好とか、全然違ってたらつまらなくないかな? そういう方まで話をしたことってなかったけど」
ユカリ(仮名)さんは笑顔で受け流した。
「別に永遠に一緒にいようとは言わないです。一緒に恋に落ちましょうとも言いません。でも、そういうモードで誰かと向き合ってみたい。せめて、そのフリはしてみたい。してみないと、いつまでも変わらない気がするんです。それに、」少しだけ何かを思い出したように笑って「『彼氏が私よりバイクが好きで困っちゃう、私は嫌いなのに』とかグチるのもちょっと憧れ。そういう表面的な趣味の領域を超えて好きって逆説的に証明してるみたいで」
釣られて笑ってしまった。なるほど。
それじゃあ、と2人は握手を交わした。とりあえず、俺はユカリ(仮名)の彼氏。ユカリ(仮名)は俺の彼女。そういう舞台の上に、お互いを放り出してみることにしたのだ。
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