そのとき君は笑った【1】

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  私は石島。職業はライター。今日は上からの命令で、とある若い女性の話を聞きにやってきた。しかし企画書を見た段階から、私はこの仕事に不穏な空気を感じていた。性に合わないというか、小難しいというか…要するに、この企画の第一印象としては『面倒臭い』だった。   その女性との待ち合わせは、A駅から歩いて10分の大きな喫茶店だった。その喫茶店の特徴として、分煙であること、そして隣の人の顔が見えない程度の仕切りが設置されていることだった。場所を指定したのは、これから取材をする女性だそうだ。個室とまで贅沢は言わないが他人に顔が知られたくないという繊細な心と、分煙と言いながらもしっかり喫煙スペースを指定してくるところから、自己管理ができない少し子供染みた女性であると、出会う前に大体のイメージを膨らませながら私は待ち合わせの喫茶店へ向かった。   喫茶店に着き、コーヒーを頼んで喫煙スペースに入る。目印は大きな白のバッグに、茶色のクマのストラップをつけているという。企画書によると、確か25歳のはずだが、どうやら趣味も子供っぽいようだ。私は慣れない喫煙スペースの匂いに鼻をムズムズさせながら、白のバッグと茶色のクマを探した。   喫煙スペースはそんなに広くはなく、『目印』はほどなくして見つかった。一番角の、壁側の席だ。私は、コホンと小さく咳払いをし、そのテーブルに近付いた。 「宮下佐奈子さんですか?」 「…はい。あなたは石島さん?」 「その通りです。お待たせし申し訳ありません」   私は彼女に名刺を渡した。彼女は深々とお辞儀をしながら名刺を受け取り、目印にと置いてあったバッグを自分の席の隣に置き直した。私は、その空いた席に座った。
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