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「じゃあ、お前は自分で見つけた言葉に縛られたいんだな」
「もちろんよ。自分で見つけた納得のいく言葉に縛られるなんて素敵でしょ? わたしは言葉にも気持ちにも縛られたいのよ」
「それってさあ、見つかったら俺も聞けるのかな?」
「ふふっ。当然でしょ。あなたへの想いなんだから」
「よし! 分かった。じゃあ、俺はお前に中途半端な言葉は求めない。例え俺が死ぬ間際でも、お前が納得いかなきゃ、絶対口にするなよ。その代わり、お前が紡いだ言葉はどんなに陳腐でも受け取ってやる」
「ありがとう。でもね、あなたもちゃんと考えてよね。わたしへの想いがあるなら。わたしもどんな言葉でも受け取とるから」
「なんだよ。共有じゃダメなのかよ」
「もしも二人で同じ言葉を見つけられたら、それって凄くいいよね」
「そんなに上手くいくかねえ」
「ねえ、そろそろ熱くなってきたわ」
「俺もだ。きたな」
「ええ。きたわ」
「じゃあ、動くぞ」
「いいわ。動いて」
約三十分の繋がったままの会話の後。
暗く澄んだ空気の部屋を、ベッドがゆっくりと軋む音が埋めていく。
そして、その音に乗せて澄んだ空気に色が付いていく。
一週間に一度だけの二人の決め事。
確かに在るのに言葉にできない二人の感情が、徐々に混ざり合い、侵食していく。
言葉を探す二人だけの秘め事。
やがて、部屋は一色に染まっていった。
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