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身体が強張ってトレーを落としそうになるのを、なんとか踏ん張った俺、偉い。
オッサンの顔を見ないように、丼へと目を向ける。
オッサンの顔より、牛丼。オッサンの顔より牛丼……ああ、美味そうだなぁ、と思ったのは一瞬。
オッサンの目の前まで行くまでの間、ずーっと、ずーっと、オッサンの視線が突き刺さりまくり。マジで穴が空くんじゃねぇか、と思ったくらいだ。
「お、おまたせしました~っ」
オッサンの目の前に置くと、すぐに背を向けるとゆっくりとカウンターから離れた。
きっと猛獣の前から逃げる時って、こんな風に抜き足差し足で逃げるんだろうなって思った。猛獣相手だったら、背中なんか向けないだろうけど。
厨房の中に入って振り向いた時には、オッサンの食っている姿は、猛獣という印象とは違い、ただ黙々と牛丼を食っていた。
それがオッサン……藤崎剣との、初めての出会いだった。
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