母親は山ほどのケーキに困惑する

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 ご機嫌で帰っていくおっさんの後ろ姿を、困った顔で見送っていたみわ子に声をかける。 「みわ子」 「ああ、政人」  困った顔が一変、ホッとしたような嬉しそうな顔に変わる。 「今日は早いのね」 「うん、ちょっとね」  学費を借金して出してもらってる身の上、さすがにサボったとは言えない。なんとか笑みを浮かべながら、ガラスケースの前に立つ。 「あの人?」  俺の言う意味がわかったのだろう。みわ子はやっぱり困ったような顔をして、手にしているケーキの箱を持ち上げてみせる。 「そうなのよ。なんだって、こんなにケーキばっかり。いつもたくさんコロッケを買っていってくださるんだけどねぇ」  そう言ってるみわ子の後ろから、同じような黒いエプロンに三角巾をしたおばあちゃんが現れた。さっき大きな袋を持って出てきた人だ。
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