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だいたい誰?あたしを違うチームに移動させたやつ。もちろん若いのにハゲチャビンなあの武藤サンていう上司なんだけど、チームさえ変わらなかったら今ごろこんな悩むこともなかったと思うのにどうしてくれようか、あのチビハゲチャビン。
会社のデスクの上には、家から持ってきたマグカップに麦茶が入って置かれていた。いつもなら温かいコーヒーなのだが、気を静めたくて、熱い想いを冷ましたくて、冷たい麦茶を注ぐ。濃くて深い茶色の液体は涼しげにあたしを見上げている。もう麦茶の季節でもあるのだ。
麦茶といえば、小さいころに母親が炒った麦からお湯出ししてくれた、芳ばしい匂いを思い出す。味も深みがあって、ティーパックの水出しの麦茶に変わったときは子どもながらにショックを受けたものだ。母親の手間を考えたら当然のことなのだけれど、麦茶の芳ばしい味と香りは大人になっても忘れない。
今日は三村サンがなかなか会社にやってこない。いつもならあたしより早く自席にいるはずなのに、出勤前に一仕事やってくるのか、もともとフレックスタイムぎりぎりの十時半入りなのか、病気や事故で欠勤なのか、彼が来るまでは気が気ではなかった。
噂をすればなんとやらで(ホントは噂してないことなんかないから当然のことなんだけれど)彼が会社にやってきた。いつもと変わらない「おはようございます」という挨拶と、ふんわりとした笑顔をみなにばらまく。その笑顔があたしだけのものなら最高なのに。
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