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「今、三村サンが来て明らかに顔が変わりましたね」
隣の席の松田が不適な笑みを浮かべながらこちらを見ていた。
「そうですか?そんなことないですけど」
「まぁ別にどうでもいいですけどね」
じゃあいちいち言ってくんなよ、朝から胸くそ悪いっつーの。そういえばこちらのチームに来てからというもの、三村サンのこと以外でコイツも悩みの種の一つだ。何かとつっかかってくる。
「三村サンの彼女すごくかわいいんですよ」
興味がないフリをするつもりだったが思わず山型の眉がぴくりと動く。
やっぱ彼女いるのか。まぁ結婚しててもいい年齢なんだから驚きもしないし、だいたいこんないい男に彼女いないわけない。彼女だってそりゃめっちゃかわいいに決まってる。
……みなさんごめんなさい。嘘ついちゃいました。強がっちゃいました。ここで懺悔します。やっぱり、やっぱりやっぱり彼女いるの?結婚してないのはよかったけど彼女いんの?万が一の可能性が億が一くらいになったよね、どうすんだよこれ。
「この世の終わりみたいな顔しないでください。いい男はまだいっぱいいますから」
のほほんとした表情にもかかわらずビシッと冷たい言葉を松田は吐き捨てた。あたしの心が読み取れるんじゃないかと思うくらいのナイスタイミング。だいたいセリフの内容と口調が合ってない。慰める感じで言うセリフじゃないの、それ。どん底につき落とされた気分なんですけど。
お前は何様だよ。確かに先輩だけど年は一個下だろ。ちょっとかっこいいからって調子乗ってんじゃないの。確かにかっこいいよ、同期の菜々もさくらも好きって言ってたよ。かくいうあたしだって顔は好きだよ。
でも、違う。でも違うの。今は三村サンなの。顔より何よりなんでか知らないけど三村サンに夢中なんだからお前は引っ込んでてくれ。
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