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買い始めた正確な日にちは憶えていないが、ぴったり10年と考えるとその10倍、約31万2000円をこのくじで使ったという計算が成り立つ。
当然赤字であり、運を相手にしているため黒字に到達する見込みはまったくない。それでも、直哉はくじを買い続けた。
(可能性は低いけど、買ってる限りはゼロじゃない。いつかは当たる…と、いいな)
当選への期待は日や気分によって変動するものの、買い方が変わることはなかった。直哉は絶対に1口ずつしか買わなかったし、選択方式はいつでもランダムピックだった。
ある日、いつものように宝くじ売り場に来た直哉は、くじ用のマークシートが散らばっているのを見た。
「あれ…」
窓口から1メートルほど離れた場所には、机が置かれている。これは窓口が混雑していてもシート記入ができるようにと置かれたものであり、シートはその机の足周辺に散らばっていた。
机にはマークシートを立てて入れるケースと、記入用のペンが固定されている。直哉が見る限り、ケースの固定はかなりしっかりしているように思われた。
どうやらシートが散らばっているのは、風のいたずらというわけではないらしい。
(こりゃさすがに…知らんぷりできないな)
散乱したシートを放って窓口に行けるほど、直哉の神経は図太くなかった。
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