よこしまな筆跡

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 彼はシートを拾い始める。全部で20枚ほどを拾い上げると、ケースに入れた。  その直後、ふと気づく。 (あ、どうせ書くんだからこれに書けばいいか)  自分がケースに入れたシートのうち1枚を取り出し、ランダムピックにマークをしてから窓口に持っていく。  すると、受付の女性が涙声で彼に礼を言ってきた。 「お手数かけてすいません、ありがとうございます…」 「あ、いえ」 「すぐ拾いに行こうと思ったんですけど、私…!」  女性はそう言いながら、ハンカチで目元を押さえた。それを見た直哉は、あわててシートを差し出す。 「あ、あの…お願いします」 「あっ、ごめんなさい私ったら。ぐすっ…」  女性はシートを受け取り、それを機械に差し込む。発行されたくじ券を直哉に返す時、彼女は赤い目ながら笑顔を見せた。 「本当にありがとうございます! どうか当たりますように…」 「ど、どうも…」  直哉は戸惑いつつも笑顔を返し、支払いをすませた。  その日の夜。  彼はネットで結果を確認した。 (…まあ、そうだろうな)  発表された番号に、直哉が持っているくじ券はかすりもしなかった。  だが今回、彼の顔に落胆の色はない。 (ちょっとは、気持ち…ラクになったっぽくて、よかった)     
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