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脳裏に浮かんだ女性の笑顔が、直哉に微笑みを浮かべさせていた。
シートを拾ったのは彼女のためではない。彼自身が穏やかな心でくじ券を買うために必要だからそうした、というだけのことだった。
しかしそれでも、喜んでもらえたというのは単純に嬉しい。
(きっと他にも、いろいろ大変なことがあるんだろうな…)
女性の苦労を思うと、しのびない気持ちになる。
直哉は、嬉しさとしのびなさ両方を心に抱いたまま、床についた。
翌日。
いつものように出勤していると、すぐそばで声をかけられた。
「おはようございます」
「…え」
直哉が振り向くと、そこには宝くじ売り場の女性がいる。彼女は自転車に乗っていた。
だが直哉には、なぜ女性が自分のすぐそばにいるのかがわからない。
「あ、あれ…?」
「奇遇ですね」
「そ、そうですね…あ、おはようございます」
「うふふっ、おはようございます。それじゃ!」
女性は満面の笑みを見せて、直哉に会釈する。ポカンと口を開けている彼を置いて、自転車で走り去ってしまった。
(まさか、こんなところで会うなんて…)
その日から、直哉と女性は挨拶をし合う関係になった。
ただ、毎日というわけではない。
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