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呼吸音さえもどかしいのは、離れていた時間があまりにも永すぎたから……。
夕陽の残像を辿り、長く伸びる君の影を追った。
いつかの春の夕暮れのように。
眩暈がする程に、君を見詰める。細い月だけが支配する、この夜に。
君と居た春。思春期の淡い春。桜と、甘い風。
「ヘールポップ彗星を、覚えてますか?」
星を探して、空を見上げた春の宵。恋を覚えた、春の宵。
いくつもの春を振り返り、15歳の君にもう一度恋をする。
いつだって、ためらい勝ちに君を追いかけた。
視線を交わす事すらできない、臆病な僕は。
低い宵の空にヘールポップ彗星を探すふりをして、本当は君ばかり見詰めていた。
君を覗めば、いつだって春の心地になる。
「私の事、いつから好きだった?」
君が囁く。雨に囀ずる、小鳥のように。
生唾を呑み込む音が、鼓膜に異常に大きく響く。
今宵、いとしい君と。
欲望ばかり渦を巻くけど、わざと素知らぬ顔をして笑う。
まるで、誘蛾灯のように甘い罠。
毛細血管の末端まで、君で満たされていく。
明け方の浅い夢のように……。
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