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「なんで泣いているの?」
「わからない」
「意味がない涙なんてあるわけないじゃないか」
「そんなこと言われてもわかるわけないよ」
性行為に入る前の小町沙織がそこにはいなかった。そこにいたのは幼い時に父親から虐待されていた小町沙織がいた。
その瞬間、小町大輔の脳裏に赤黒い忌まわしい過去がブラッシュバックとして蘇った。
「チッ、くそ」
「どうしたの?続きしようよ」
「そんな涙を見せられたら一気に気持ちのほうも冷めてしまったよ」
「じゃあ、こんな状態にされた私はどうすればいいの?」
「無かったことにしてくれよ、姉さん」
「なんで? ここまでしといて無責任だと思わないの?」
「思う。けど、もうできなくなった。そんな涙を見せられたらなにもできなくなったんだよ」
そう言い残し、姉という立場に瞬時に戻された小町沙織をからっぽでありながら彼女の愛液で濡れてもいる桶から小町大輔は出てゆき、古びた日本家屋の家の奥に身を引っ込ませ隠れてしまった。
様子が急変し身勝手にいなくなったおとうとの立場となってしまった小町大輔の後ろ姿を神妙な表情で見送っていた小町沙織は桶という籠の中で立ち上がり、沈み偏った月を見上げた。
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