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血飛沫の開幕 我罪龍之介
血の染みと細かな刀傷が刻まれた(小町剣道道場)と墨汁で描かれた立て看板に、山々から飛んで来た小鳥たちが休みにきては囀り、朝の爽やかな景色を彩らせていた。が、すぐに小鳥たちを飛び去ってしまう音が道場内から響いたのだった。
「一、!」
ばぁん!!
張り上げられた声とともに道場の床を激しくふみ鳴らす足音。
剣道着を着た小町大輔が竹刀を振るい、朝の稽古をしていた。
小町大輔の額は汗で濡れ艶光している。踏み込むたびにその汗が飛び散る。
隣には唯一の、師範の小町沙織のことを憧れて門下生となったばかりの佐々木舞がいた。
彼女は昔、父親に虐待されていた時の小町沙織のお古の剣道着をなんの抵抗もなく着ていた。
佐々木舞はこの剣道着に染みついた暴力と父親の気狂いめいた思念が込められていることを最初から知っていた。教えられたわけではない。教えて貰う必要なんてなかった。だって、小町沙織を虐待していた父親の親戚にあたるのだから父親殺しの噂なんてずっと前から知っていることだった。じゃあ、なぜそんな父親殺しの小町沙織を憧れているのかっというと、佐々木舞自身も性暴力を受けていたからだ。
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