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首を失った侍風情の身体から凄まじく夥しい血飛沫が美しい満月が浮かぶ夜空を鮮血に染めた。そして、また浄化なはずの雨水が含まれた大粒の血の雨が小町沙織の身体を紅黒く染めては濡れさせたあと、斬り飛ばされた首が次から次へと落ちてくる。のを人斬り職業にした小町沙織に降りそそぐ。
だが、その斬り殺した男の首を軽く身体の位置を変えてはしなやかにかわしてみせた。
この状況に至るまで約、五秒程度のことだろう。
そんな尋常外れな姉の人斬りの一部始終を見ていた弟の大輔は生唾を飲み込まずにいられなかった。
恐怖とか姉に対しての恐れとかなにもなかった。
あるのは異様なぐらいに人斬りの姉に惹かれ憧れる意味での生唾だ。
煩わしい小雨が激しくなってきた。
小町大輔の足許に水溜りができていた。
その水は土で濁り汚いものだった。
だが、僅かだが、自分の顔が薄らぼんやりと濁って浮き現れていた。
土色の水溜りの水面に映された小町大輔の顔は自分が思っているのと違い戸惑った。
?を引きつらせて笑っていた。
今夜の他人の人誅を終えた小町沙織は片膝を水溜りができた水面につけ、切っ先を地面に突き刺せ、微かに乱れた呼吸を整えることに意識を向けていた。
紅黒く鉄錆びのような生臭く苦い香りが身体を漂わせる。屍となって地面に倒れた侍風情の男の血飛沫を浴びた小町沙織を本降りの雨が浄化させていき、癒していく。
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