血飛沫の開幕

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血飛沫の開幕

 煩わしい小雨が降りそそぐなか、小町沙織と弟子であり実の弟の小町大輔を引き連れて、白銀の月光が照らされた馬鹿騒がしくとも華やかな色街に出向いていた。  出向いた理由はまぎれもない人誅のためである。  色街の闇道に身を隠し潜めた人斬り小町沙織と大輔は、ある居酒屋を見定め、ずっと観察する。  その居酒屋に今日、依頼主の代わりに人誅を決行し暗殺する輩が飲み明け暮れているからだ。 「しかし、大人っていうのはなんであそこまで酒を飲みたがるのかな、不思議でしかたがないよ」  と、闇道に柄悪く座わる雨で身体の隅々まで濡らした小町大輔が喉から唾を居酒屋に吐きつけるかのように言い捨てた。 「しばらく待ってましょう。もう少ししたら出てくるから」  姉は弟と違って穏やかな口調だった。  左手に和傘が握られているため姉の沙織は煩わしい雨に晒され濡れることがなかった。が、右手のほうはしっかりと腰におさめた日本刀の柄を握り締められていた。  いつでも飛びだす準備ができている。  そんな姉の様子を一瞥する弟はいつもながら驚かせられていた。  人間の瞳じゃない。  まさしく人を何人も斬り裂き殺してきた正真正銘な人斬りの瞳だからだ。     
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