冬深く

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 目の前にはくっきりした敦人の喉仏が見える。 「ごめん、平気?」  ごめん、って何? 平気って何?、と少し意地悪な気持ちになって顔を上げると、敦人が落ち着かなさそうに目を瞬かせていた。 「大丈夫。敦人は?」  口にした後で気が付いた。たかがキスしたくらいでお互い随分と間の抜けた質問だ。そんな風に冷静でいたのは遥希だけだったようだ。敦人は昂った気持ちを落ち着けるように大げさに深呼吸した後、両手で顔を隠した。 「俺は、大丈夫じゃない……あー、緊張した! 俺、初めてキスした。」 「初めてなの?」 「うん。うん? あれ? そういやこの前したっけ?......」 「この前、キスしたんだ。」  うっかり口を滑らせてしまった敦人は、しまったという顔をして遥希を見た。苦い表情で真っ直ぐに自分を見る遥希に、敦人は一番まずいタイミングで一番言ってはいけないことを口走ったと自覚して慌てた。 「あ、の。夏にバイト、イベントのバイトしたんだけど、一人暮らしのお金ためるためにさ。そのバイトが終わった後に全員で打ち上げに行って、で、その時……した、いやされたというか。なんか、俺言い訳ばっかだ。ごめん......」  取り繕うとすればするほど焦ってしまい、モゴモゴと誤魔化すように語尾が小さくなってゆく。その様子に遥希の気分はますます落ち込んでいった。  なんだ、結局そういうことじゃないか。女の子と仲良くやっているんなら、何もこんな風に自分を揶揄う必要なんてないのに。
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