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建物外観はお世辞にも綺麗とは言えないものだったが、共用部分は潔癖症気味な管理人のお陰でこざっぱりと磨き上げられていた。部屋の壁紙も、『ほとんど汚れてないからこのままで借りてもらえないか』と聞かれたところを、一か月目の家賃の割引と引き換えに交渉成立。まさに掘り出し物件だった。
十月の大学内交流スポーツ大会で遥希に再会した時、敦人は真っ先に引っ越すことを伝えた。野球の試合の最中、三塁の上だった。
サードの守備をしていた遥希に、ランナーとして塁に進んできた敦人がまるで道端で会ったようにその話をしたのだった。
「ハル! もうすぐ一人暮らしするから、遊びに来いよ。」
大学に入ってからは学部も校舎も違うから実際に顔を合わせるのは入学式以来初めてだった。たまにメッセージアプリでやり取りするのは、お互いの学食の内容や、相変わらずサッカーの話。
そんな状況で久しぶりに会っていきなり部屋に誘われた遥希は、嬉しいとか驚いたと言う感情を通り越して妙に冷静に答えてしまった。
「じゃあ寒くなったら鍋しに行く。」
後から考えればあれは敦人なりの(笑えない)冗談だったのかもしれない。
例年より早い冬の訪れにそろそろ遊びに行こうかと遥希が逡巡していた矢先、能天気な声で敦人から電話がかかってきた。
「ハル、俺だけど今週末暇やったら鍋しない? 泊まってもらっても大丈夫だから。」
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