代打

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代打

 基本パーソナリティーが喋るのがラジオであり、リスナーはそれを求めている。そのため、ブースの中にいる作家さんは声はほとんど出すことはない。しかし、この番組は違った。リスナーも月多もスタッフいじりをしてくる。もちろん僕もいじられる中の一人だ。番組の中ではスタッフは全員あだ名で呼ばれる。僕もあだ名で呼ばれる。僕のあだ名は「万年平社員」  リスナーも月多も「万年平社員」と呼ぶ。  そんなある日、月多が本番直前にラジオクラブ放送から逃げ出してしまい急遽代理のパーソナリティを探さなくてはならない状況になってしまった。それを担当するのも、もちろんADの仕事。  月多の代わりに出来る人を一生懸命探した。しかし…見つけることが出来なかった。当たり前だ。入ってまだ、数か月の僕が見つけることなんて出来ないのだ。  「おい!お前!お前が代打やったらどうだ?」  ディレクターがふと僕にそんなことを言った。  ディレクターは番組を作るメインの人である。この人から言われたことを僕が実行する。これが僕の仕事である。そのためいつも決まって「はい!」というのが日課な僕は、その時も何も躊躇なく「はい!」と言ってしまっていた。
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