0人が本棚に入れています
本棚に追加
無様にイカしてた俺もさすがに分が悪くなってきたよ。だから口角がまんまと上がる感じの、イカサマっぽい笑顔なんか作って彼女の方を向いたんだ。すると向こうも「ニコッ」ってね、ほんとにそういう音がしたよ。そうやって彼女の方も笑ってくれたから、これにて意思が疎通したんだ。でもよく考えてね。今の俺の動作ってのはよっぽど奇行だと思わない?だってさ、彼女が来たのに意味もなく無視決め込んで、全然かっこよくないカッコつけしてたのに、チョコらしき物体が膝の上に置かれた途端「ニコッ」だよ。もちろん俺のは音がしないやつなんだけど、恐くない?普通に情緒不安定かよ!信号機かよ!みたいな感じ。なんせ彼女の懐がチャレンジャー海淵よりも深いからさ、おふざけなんて許してくれるんだ。
ついでに言うと、そうやって目が合ってすぐにキスしちゃったんだ。彼女は喜んでいたね。そういう不意のやつって、ほとんどの女の子は気に入るんだ。興奮したね。彼女には申し訳ないけど、きっとこのチョコよりよっぽど味わい深かい。カカオ72%ぐらいの渋みもあるんだから。ミルクのように甘くもあるんだけど、なんてね。なんせ寒かったから、彼女の肌はよけいに暖かかった。柔らかいしね。それをリアルに感じちゃったんだ。目を開けると真っ白な肌があって、頬のところがやっぱりちょっと赤くて、途轍もなく抱きしめたくなった。でもね、彼女は繊細だから。笑っちゃう表現使うと、その“雪のような”白い肌も然り、心までもがってな感じ。あまり強くギュっとしちゃうと壊れちゃうんだ。きっとね。寂しいけど。
「それ、今開けないでね。帰ってから食べてよ」
結構無口なんだけどね、彼女。そうやってボソッと呟くように言った瞬間がね、もう昇天しちゃうくらい可愛いんだ。ツンデレとは微妙に違うんだけどね。そんな感じ。愛想はいいんだよ。でもね、とにかく口数が少ないんだ。語彙が足りないとか、頭の方がおバカちゃんとか、そんなのじゃ全然ないんだけど、要点だけを絞って言う感じ。それも目を合わせてちゃんと言うとかじゃなくてね、明々後日の午後みたいな方向向いて言うんだ。まぁ、そんな恵方巻みたいな話し方なんだけど、そんな風にしながらボソッと呟かれたらキュンとしない?俺が変わってるのかな。そういうの勇者しか抜けない剣ばりに性癖にぶっ刺さるんだけど、これに関しては共感者挙手して欲しい。
最初のコメントを投稿しよう!