とける

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 ついにこの時間がやって参りました。言いたくないんだけどね、もう正直言っちゃう。引っ掛かった人いるかな?実はね、彼女の文言に返事しちゃダメなんだ。だってさ、もし君がビックリしちゃうくらいの住宅地の中程にある公園の横を、フラりとかダラりって歩いて通ったとするよ。その時目にする光景が、ベンチで一人、男がうだうだ何かと話している図だったらどうよ。それもバレンタインデーの夕方に。それでもっと悪いことに、よくよく見てみると、雪で作った女性の像なんかだったら……。もうね、B級ホラーどころの騒ぎじゃないよね。S級ホラーだよね。そういうのって一番怖いからさ。ほら、オバケが「ギャー」みたいに脅かすのより、人間の狂気みたいな方が怖いでしょ?実際は。今ちょうどその狂気。自分で言うのもなんだけどね。しかもね、俺の目から見えてるのは、曖昧に前述した通り、めっぽう美人な女性なんだけどね。実際は雪の塊なんだ。ちょうど2,3時間で作れるような出来だよ。こんなことしてるとほら、今通りかかった胡散臭いパリピ君達も思ってるのよ。「うわっ、なにしてんだアイツ。やばすぎるだろう」とか「あれだよあれ、絶対工学部のやつだよ。周りで見たことねぇし」とかナントカ言ってるんだよ。言わせてもらうけどな、今どき学部ごとに偏見持ってるやつの方がくだらねぇからな!と声に出せない反撃を試みる頃には、もうパシャリパシャリとか、動画を撮る開始の音とかがめちゃんこ鳴り響いてるんだ。今日中にSNSに上がりましたとさ。 まぁ、いいんだ。その辺は。二人の時間を溶けるまで楽しめればいいんだ。  自意識をしっかり持ちながら言うとね、それでも今隣にいる彼女を蔑ろにするわけにはいかないんだ。だって俺には、美しい生身のマイハニーちゃんが見えちゃってるんだから、最後まで付き合うのが筋ってもんでしょう。そう思いながらも、かなりタイムリミットらしいんだ。実を言うと。二つの意味でね。一つは、この麗しき雪化粧の女性が溶けちゃわないかなって心配。そりゃ夜になるにつれ気温は下がるよ。でもね、もはや溶けかかってるみたいだし、夕方のうちに今より醜くなるなんて耐えれないよ。ろくでもないパリピ達には明らかに大きめの雪だるまかもしれんよ。だが俺にとっちゃかけがえのない愛すべき対象でしょうに。それを誰しも分かってないから、分からせるために、存分に愛撫でもしてやろうかと思うんだ。
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