とける

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 え、なんでそうなるの。おかしいじゃんだって。彼女の手がもうグッチャグチャに、グロテスクの化身みたいな右手になっちゃうわけだろう?でも違うんだよ。逆なんだ。俺の左手がグッチャグチャのグチャになっちゃったんだ。こういうさ、地球が表面脱いでリバーシブルにして着るみたいなことが起こった時って案外冷静だよね。「うわぁぁぁぁぁぁぁ!なんなんだよ、これ!俺の方かよ。なぁ、マイハニー、嘘だと言ってくれよぉぉぉぉぉぉぉ」みたいなことにはならないよね。たいがい「あぁ、そうか」みたいな感じになって、脳内の小さすぎる大量のミジンコみたいなのが這いずり回るのを急停止する感じ、それだけ。変に納得しちゃうよね。いや、そりゃ俺は只今冷たいですけれど、そういうんじゃなくて、心が冷静ってな感じで。もう自分で何言ってるか分かんないわよ。あなた。それでもね、最後に見たものは切なすぎて覚えてる。次俺が作られる時には、この美しい女性を元カノと認識してたりしたらいいな~なんて。だってさ、やっぱり可愛いんだ、この子。名前は教えてもらえなかったけど、言葉なんか超越しちゃう最後のシーンね。こう言うんだ。 「もう時間か。早いな」  そうやってね、言うんですよ彼女。それでジワジワ膝の中に沈んでゆく四角い小さな箱を見ながら、目の下にダラり、キラッと輝くわけ。それみて俺も涙流して、と言っても全部涙みたいなもんなんだけどね。哀しいことに。せめて何か慰めの言葉でもかけてあげればよかったのだけれど、そういえば一度も俺から彼女に話しかけてないし、そう思うと「あぁ、そういうことか」だよね。だから精一杯溶けちゃうんだ。名残惜しくないように早めにね。ごめんね。急いで帰るから。また作ってね。 「それじゃ、ロング・ロング・ロング・グッドバイ!また会う日まで、達者でな!」  なんてね。どうせ聞こえてないよ。
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