君に贈る花束

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君に贈る花束

 気付けばがむしゃらに生き抜いていた。とにもかくにもがむしゃらで横目もくれずに仕事に没頭した。怒られることが仕事になりつつあった毎日。辞めていく仕事仲間たち。ただひたすら、生活をしていくことを第一に考えて走り続けていた。いつの間にやら同期はいなくなり、二十八歳になった今は部下を持つ責任のある立場にいた。 「ただいま」 「おかえりなさい、今日もご苦労様です」  若く貞淑な妻ではあるが、意外と気が強く、落ちぶれてしまいそうな私の尻を蹴り上げて、叱咤激励してくれる唯一無二の存在。  家庭のことは全て妻に任せっきり。掃除も洗濯も家事も育児も。愚痴は言われども、文句も弱音も吐かず、私について来てくれた世界でたった一人の特別な人。 「なあ。バレンタインデーのお返しはどうしたらいいかな?」 「ああ。職場の皆様へのホワイトデーのお返しね。先日、あなたらしく皆様にも合うものを見つけたので選んで買ってありますから、ご心配無用ですよ」  優しく微笑む妻は、私の専属フィクサーだ。自分で選ぶには、昨今のチョコレート市場は情報量が多過ぎて難しい。特に、私たちの住む港市は隠れた甘味処スポット多いことでも有名らしく、何かとイベントの際にはローカルテレビに紹介されていた。  いつも選んでくれるのは妻だ。だから部下に渡す時には、妻が選んでくれた、と素直に言うつもりだ。  最近は娘も息子も動き回り手がかかることもあって、私の存在は無下にされることもしばしばあった。だがそれも愛ある所以であって、時折、愚痴と称して部下に自慢していた。     
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