君に贈る花束

12/22
前へ
/22ページ
次へ
 朝は早起きをして昼の弁当を作って、朝ごはんも作る。掃除もいつの間にか終わらせていて、ぼんくらの俺が出る幕はない。 「有給消化もあと一週間かー。あー。あと一ヶ月で退職かー。まさか私が寿退社するなんてなー」  職場で誰よりも信頼を築き上げ、誰よりも仕事に熱意を注いでいた。 「悩んだけどやっぱり子供出来た時を考えると預けられる病院探した方がいいかなって」  まなは明るくて優しくて温かい。太陽みたいで。高校生の頃は言い争いも多かったけど、今となっては良い思い出だ。 「そう言えば早速、面接予定決まりそう。ほら、東病棟の師長が紹介してくれたところ」  いつも遠くから見ることしか出来なかった女性が今隣にいるのに。 「そう言えば皆から驚かれたよー。佐藤と婚約しましたーって言ったら、ののかなんか目玉飛び出しそうなくらい驚いてて! 三木谷先輩なんて、嘘を吐くなって言うし。室町、じゃなくて今は染井か。染井純なんか紅茶噴き出すし。失礼だよね。そんなに驚くことかな?」  皆、彼女が大好きなんだ。 「まあ、恋愛も縁遠い女で通ってたから無理もないか」  風に流れて話は届くものだ。   "佐伯まなさん最年少で主任だね" "佐伯まなさんのレポート学会で発表されるらしいよ" "美人だし、仕事も出来るし、優しいし"  色々良いことが聞こえては来るが、不思議と悪評はなかった。  怒ると鬼より怖いんだ、と伝えたいと思ったこともあった。でも、彼女のしわくちゃに笑う顔を見るとそんなこと忘れてしまうくらい愛しく思った。
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加