君に贈る花束

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 言いたいことは山ほどあるはずなのに、いざ言う時には上手くはいかない。  それでも届くと、俺は信じられるんだ。 「……俺、まながいないと生きていられない。部屋、ゴミ屋敷。栄養偏り過ぎて貧血気味」 「まじか!」 「……俺、言葉上手くないから。ごめんね」 「……うん、知ってる」  抱き締めた身体はとても温かかった。 「まな、愛してる」  じいさんばあさんになっても彼女のことを全て理解することは難しいだろう。だからこそ、一生涯を添い遂げたいんだ。  頼られる様に、俺も頑張るから。俺も、貴女の目印になるから。 「……ここから見える、朝焼けに照らされる町の景色を見れば、縁結びのご利益があるって」 「そうなんだ」 「いい歳して何してるんだろうね……私、本当は大雑把なんだよ」  たった一言。この一言が、更に愛しくさせるんだ。 「うん。知ってるよ」  誰にも見せない努力家。俺たちはきっと、器用貧乏なだけ。ただそれだけ。  これからもっと、沢山の顔を見せて。 「……愛してる……っ!」  もう一度言って欲しい。 「俺と、結婚してください」  貴女と一生涯、一緒にいたいんだ。 「よろしくお願いします」  子供は何人がいいだろうか。毎日どんなに賑やかだろうか。  互いに目が合い、唇が触れ合った。 「世界で一番、愛してる」 「……私も、です」  朝焼けの、透き通る風の匂いがした。 「……いっくん、汗臭い」 「え、あ、いや、ご、ごめん。走ってたから……」 「いっくんの汗の匂い、好きだけどね。後さ、こういうのもあれなんだけど、今日で有給最終日だから帰るつもりだったよ」 「え!」  てっきり出て行かれたのかと思っていた。違ったのか。そう思った途端、急に力が抜けてしまった。そんな俺を見て言った。 「だって。佐藤は私がいないと生きていられないでしょう?」  悪戯っぽく笑う彼女に、頭が上がらない。将来はかかあ天下間違いなし。  
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