君に贈る花束

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 ちなみに、どこのものかは知らないが、娘と息子からは市販のボンボンチョコレートのセットを貰った。妻からのバレンタインデーの贈り物は、手作りのチョコレートケーキだった。毎年変わらず、妻は作り続けていた。 「……そうか。さすがだな」 「今、スープを温めますね」  台所にかけていく妻の後ろ姿。こんな時、素直にありがとうと言えたら良いのに。良い歳したおっさんの癖して、妻に、たったその一言が伝えられないなんて。  娘に助けを頼もうか。いや、男らしくないだろう。どんなに歳を重ねても、妻の前では男らしくありたいのが本音だ。  なら息子はと考えて首を振った。息子も男だ。きっと俺のように悩むに違いない。 「あらやだあ。食器用洗剤を切らしていたわ。ちょっとそこまで行って来ます」 「いくら春が近いとはいえ、夜は冷えるし危ない。私が行って来るよ」  こんなことは言えるのに。 「そう? ならお願いしますね。詰め替えのボトルでお願いね。いつもありがとう、あなた」 「なあに。これくらい朝飯前さ。いや、夜飯前か!」 「もう。そんな冗談を言って」  こんな冗談に笑ってくれる人は、世界中どこを探しても、君だけだ。だから、伝えたいのに。 「……行って来る」 「行ってらっしゃい」  その一言が言えない私は、何と情けないことか 「四百九十八円ちょうどお預かりします」     
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