君に贈る花束

20/22
前へ
/22ページ
次へ
「こ、断ったよな?」  精一杯の返しに、彼女は目を見開いて聞き返してきた。 「どうかしらね」 「え……」 「……冗談よ。断ったに決まってるでしょ。あなたがいるのだもの」 「……花音さん、心臓に悪いですよ……」  真っ直ぐに俺を見返す瞳が、靡く黒髪の長髪で見え隠れしていた。夕暮れが、夕闇に染まっていく。  いたずらっ子みたいに笑う彼女はただただ愛らしい。 「あなたが私を不安にさせるから、お仕置きってこと」 「俺が花音以外に見向きするわけないでしょ」  ふいに、彼女は俺の手を握って来た。そしてぴったりと寄り添って言った。 「私、こう見えて自信がないのよ……だってあなたは中々踏み込んでこないもの」 「そ、それは……」  それはただただ。俺が情けないから。関係を進めたくても、隣を並んで歩くだけで精一杯なんだ。  それを見栄と意地という鎧を纏って、機を探しているんだ。 「私は、どこにいてもあなたを思っているのに。あなたはどう思っているのかわからなくて不安になるのよ……」  消え入るようなか細い声。その声に、俺の何かが弾けた。
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加