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「こ、断ったよな?」
精一杯の返しに、彼女は目を見開いて聞き返してきた。
「どうかしらね」
「え……」
「……冗談よ。断ったに決まってるでしょ。あなたがいるのだもの」
「……花音さん、心臓に悪いですよ……」
真っ直ぐに俺を見返す瞳が、靡く黒髪の長髪で見え隠れしていた。夕暮れが、夕闇に染まっていく。
いたずらっ子みたいに笑う彼女はただただ愛らしい。
「あなたが私を不安にさせるから、お仕置きってこと」
「俺が花音以外に見向きするわけないでしょ」
ふいに、彼女は俺の手を握って来た。そしてぴったりと寄り添って言った。
「私、こう見えて自信がないのよ……だってあなたは中々踏み込んでこないもの」
「そ、それは……」
それはただただ。俺が情けないから。関係を進めたくても、隣を並んで歩くだけで精一杯なんだ。
それを見栄と意地という鎧を纏って、機を探しているんだ。
「私は、どこにいてもあなたを思っているのに。あなたはどう思っているのかわからなくて不安になるのよ……」
消え入るようなか細い声。その声に、俺の何かが弾けた。
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