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「き、きき今日は少し早めに……旅館に戻ろうか」
緊張のあまり、声がひっくり返った。
「ふふ。わかりやすくなって安心よ」
俺は花音に向き合って、その頬にキスをした。
気恥ずかしくなっていると、彼女は言った。
「これなら素直にお祝い出来そうね」
「……はい」
全く彼女には敵わない。
仕方ないから、彼女の親友であるあいつにおめでとうと言ってやろう。
彼女に免じて、だ。
「早くクレープ食べに行きましょうよ!」
「明後日結婚式参列するのに食べて大丈夫?」
彼女はまたも俺の頬をつねって言った。
「そういうとこが扱い下手ってこと!」
「……すみません」
音大生時代。お気に入りだった奇抜なヘアカラーも、今じゃ落ち着きダークブラウン一択。派手さがなくても俺は俺を表現出来ている自覚がある。
『……泉川先輩のその服のセンス。ナンセンスですね!』
忘れもしないあの言葉。
「言ってくれるじゃんよ」
奇抜なカラーを青春の思い出に残して。
「ほおら。行くわよ!」
あいつが俺を認めてくれたから。そして、君が俺を見ていてくれたから。俺は今も俺でいられるんだ。
「……花音、好きだよ」
「知ってるわよ、そんなこと」
旅館に戻ったら近くにあった花屋で、君にぴったりの花束を作ってもらおう。そして、将来の話を君としよう。
ふと横を見ると、日の光で輝く宝石の様に眩しい海が広がっていた。
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