君に贈る花束

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   今日も港市はいつも通りの日常を過ごしている。海が波音を響かせ、風が吹けば鳥が飛び立つ。どこからともなく、朝の市場からは威勢の良い声が聞こえ始める。海の音が大きく聞こえ始めれば、港市からは賑やかな声や音で溢れ出す。  まるで夢の中いるような穏やかな居心地に、港市を訪れた者は魅了されて語り継ぐ。語り継がれた者は興味を持ち、港市を訪れる。それを繰り返しながら、港市はその魅力を思う存分披露している。  いつしか港市は、海に香る夢の街として、魅力的な街として認知されていった。 「あ、あのクレープ屋だね! あの若手プロ奏者の実家!」  海の様に深く心地良い音色。 「この小豆色の制服着るのやだ ー。お母さん、良くこんなもの着てたよね」  新たな門出を迎える者。 「……うーん。はー! 気持ち良い潮風!」  親に似て、海にドライブに行くことが好きな者。 「ママー。パパがすみっこで布団かぶっていじけてるよー」  相変わらず、変わらずに生活している者。 「kanonn siraishiがまたクラシックコンサートの動員数を更新して歴代一位なんだって! ソロクラリネットアーティスト野々宮海と言い、学生からの支持率人気ナンバーワンの指導者羽田センと言い、この世代は演奏家や音楽家のの宝庫ね! 一個上にはジャズサックスの泉川でしょう?」  沢山の話が飛び交い、弾けて漂う。  今日も色々な声が溢れていく。  誰かの喜びが、誰かの怒りが、誰かの哀しみが、誰かの愛しさが溢れていく。  港市で時間(とき)が刻まれ続けている限り、物語は受け継がれて続いていく。 君に贈る花束 完 海に香る夢シリーズ 完
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